2020/02/28

Mika meets Benoît Nihant 2/2
ゲスト:ブノワ・ニアンさん




BENOIT NIHANT〈ブノワ・ニアン〉その2
CHOCOLAT DE DOMAINE



BENOIT NIHANT〈ブノワ・ニアン〉のチョコレート


日本で購入可能なBENOIT NIHANT〈ブノワ・ニアン〉の5種類のチョコレートについては、次のようなとっておきのエピソードを語ってくれました。 


カカオ農園にて、カカオの実とニアンさん



マヤン レッド 74% 

「中米のホンジュラスへ旅したときに、一目で惚れ込んだカカオ豆でした。カカオの品種はトリニタリオなのですが、他にはない顕著な特徴がありました。それはカカオの実が標準より小ぶりで赤色をしていたことです。赤色のカカオの実ははそれほど珍しくないのですが、ここまで鮮やかな色となると稀です。さらに一本のカカオの木から収穫できる実は、年間で平均10個程度と非常に少ないです。 

このカカオは古代マヤ遺跡として知られるコパン遺跡の近くに育つことと、古代マヤで神聖とされた赤い実の色から、こう命名しました。学術的な根拠はありませんが、地理的なことを考えると、古代マヤの人たちも同じカカオの実を食べていたのではないでしょうか」。 

○Mika のひとこと: ドライレーズンのような酸味>ナッツ>キャラメル、そして最後にコーヒーの風味が波のように訪れます。



 サンフランシスコ・デ・マコリス 73% 

「このカカオ豆もひとめ惚れでした。出逢いはドミニカ共和国で、バックパック旅行をしながら、現地のカカオ農園をいろいろ訪ね歩いてはサンプルを集めていた時のことです。品種はイスパニョーラです。ご存知のようにイスパニョーラは、西側3分の1をハイチ、東側3分の2をドミニカ共和国が統治しているカリブ海にある島の名前で、この島で採れたカカオ豆ということで、現地の人たちは “イスパニョーラ”と呼んでいます。でも私はトリニタリオの一種ではないかと推測しています」。 

○Mika のひとこと: リコリス、バニラといったハーブやスパイスの風味を感じるチョコレートです



ノワール オ レ サンフランシスコ・デ・マコリス 55% 

「前出のサンフランシスコ・デ・マコリス 73%と同じ豆で作ったミルクチョコレートです。ミルクチョコレートは大抵40%から55%のパーセントの間にしています。またダークチョコレートは73%か74%にしています。 カカオのアロマにニュアンスを出すのに最も優れたパーセントだと思うからです。一般的にダークチョコレートは苦味を強調するために、カカオのパーセント非常に高く設定することが多いのですが、パーセントを高くしすぎると、本来カカオ豆が持つアロマは失われ繊細な味わいが出ません。逆にこれより低いパーセントだと甘さが優ってしまいます」。

○Mika のひとこと: カカオとキャラメルのような甘さを感じられる〈ブノワ・ニアン〉らしいミルクチョコレート。



19世紀に作られたコンチングマシーンとニアンさん



 リオ・ドゥルセ 73% 

「この豆はグアテマラ産トリニタリオ種で、アトリエに送られてきたものです。定期的に各地から種々多様なカカオ豆が届くのですが、豆の詳細がわからないとか品種が混ざっていたりで残念ながら使えないことが多いです。ところがこの豆は違いました。数種類あったカカオ豆のすべてに詳細な情報が添付されていて、品種ごとにきちんと分けられていました。このカカオ生産者は約450人の現地のカカオ農家に農業指導をしながら品質を向上させていました。そのおかげで発酵・乾燥といった重要な行程もしっかりと管理されていて、収穫ごとの品質に大きなバラツキがなくきわめて安定しています。このカカオ豆はとてもフェミニンな味わいの甘味のある仕上がりになります」。 

○Mika のひとこと: やさしくマイルドな味わいが多くの人に好かれそう。



 ラジェド ド オウロ 74% 

「このカカオ豆はブラジル産でカトンゴという品種です。フォラステロの一種ですが、この豆の断面は白いものが多く、ホワイトカカオになる割合が大きいです。甘くてまろやかな香りがする豆で、チョコレートにするとダークチョコレートなのに、まるでミルクチョコレートのような色になります。赤い果実やドライフルーツの風味があり、とても繊細な味わいが口の中に長く残ります。 

このカトンゴとの出逢いには物語があります。それは私と同じ歳の現地の農園主との友情から始まりました。彼はブラジルのバイーア州にあるカカオ農園を祖父から受け継いだところでしたが、土地は放棄された状態でした。というのもバイーア州では80年代の終わりにテング巣病が蔓延したことで、カカオ農業が大打撃を受けてしまったからです。 彼はアメリカで教育を受け、それまでアメリカの金融関係の企業に勤めていましたが、祖父から土地を受け継いだことで、アメリカでの生活を辞めて、祖父が暮らした熱帯雨林の中に拠点を移して農園を再生することにしたのです。 

彼が農園に招待してくれたときに、いかに注意を払って彼がカカオを育てているかを目の当たりにしてシンパシーを抱きました。私たちは共に研究を重ね、在来種であるカトンゴ種のカカオの木を育ててチョコレートを作ることにしたのです。ところが当初はカトンゴを見つけるのは至難の技で、チョコレートを作れるだけの量を確保できるような状態ではありませんでした。 

それから何年も待って、やっとチョコレートが作れる量ができるようになった時、〈ブノワ・ニアン〉は10周年を迎えようとしていました。こうして2017年に創業10周年記念したラジェド ド オウロ 74% が誕生することになったのです」。

※ Catongoは「カトンゴ」だけでなく「カタンゴ」と表記することもあるが、ここではニアンさんの発音に準じる

○Mika のひとこと: フローラルな香りと赤いフルーツの味わいが際立つ魅力的な味わい。


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 text © Mika Ogura 2020 


【プロフィール】

 小椋三嘉(おぐら・みか) 
 エッセイスト、食文化研究家。  
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。


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