【news】www.chocolatclub.com: フランス料理シェフ、アラン・デュカスに訊く

LE CHOCOLAT ALAIN DUCASSE

manufacture à tokyo

アラン・デュカスへの１０の質問

「ル・ショコラ・アラン・デュカス」は、フランス料理シェフ、アラン・デュカスが手掛ける、フランス・パリ発のショコラ専門店です。今年５周年を迎えたのを機に、アラン・デュカス本人に１０の質問をしてみました。とても興味深い答えが返ってきたので以下にご紹介します。

アラン・デュカスのお気に入りのチョコレートも初公開！

Question n° 1_小椋三嘉（以下、MO）

「ル・ショコラ・アラン・デュカス」が日本の第一号店をオープンした日本橋は、かつて３００年以上続いた魚市場があり、江戸の胃袋を支えた歴史的にも食にまつわる背景を持った土地柄です。また２０１８年まで８０年以上続いた築地市場からも近いです。海外初の第１号店が５周年を迎えて、感じることがあれば教えてください。

アラン・デュカス

数年前に築地市場が閉鎖される前に訪れる機会がありました。日本橋は銀座にも近く、私の初めての東京のレストランの一つであるベージュがあります。

はい、あなたが言うとおりで、私は日本橋と強いつながりがあります。今では17世紀の痕跡はほとんど残っていませんが、２０世紀初頭の“橋”が再び価値を見出すことを楽しみにしています。

私は“橋”という概念が大好きです。それは私に旅や出会いを思い起こさせます。“橋”は異なる世界を繋げる役割を果たします。私は料理も同じように捉えています。

Question n° 2_MO

この５年の間には、新型コロナウイルス感染症を始め、重大な懸念ごとが多々ありました（現在も進行形ですが）。こうした時代を過ごしたことで、「ル・ショコラ・アラン・デュカス」を含め、あなたが展開している事業に対する考え方、方針、あるいは、あなたの哲学など、これまでと変わったことありますか。

アラン・デュカス

この健康危機は短期的な影響と長期的な影響の両方をもたらしました。

短期的なところでは、私たちの分野では店舗の閉鎖という大きな衝撃に直面しなければなりませんでした。しかし、多くの人々は決意をもって行動し、宅配やテイクアウトのサービスを展開することで対応したのです。フランスでは、幸運なことに、政府からの大きな支援を受けることができました。そのおかげで、この困難な期間を比較的スムーズに乗り切ることができました。

そして、長期的な影響もあります。この危機は私たちに自然との関係について考えさせるものです。新型コロナウイルス感染症の正確な起源はおそらくわかりませんが、動物から人に感染していく感染症が増えていくことが懸念されます。それは私たちの自然に対する無礼な態度を反映したものではないかと思います。ですから私たちが「自然の料理」、自然からインスパイアされ尊重する料理をより一層大切にしていかなければならないことはあきらかです。

Question n° 3_MO

新型コロナウイルス感染症によるステイホームの期間を経て、日本では発酵食品を生活の中に取り入れる人が増えてきました。チョコレートやコーヒーも発酵食品ですが、アラン・デュカスさん、あなたは自身の生活にどのように取り入れていらっしゃいますか？

アラン・デュカス

発酵は非常に古い歴史を持つ変換および保存のプロセスであり、日本では日本酒、フランスではワインなど、どちらの国でもよく知られています！

栄養士は、発酵が身体に非常に有益であると教えています。料理の観点から言えば、発酵が“酸味”という風味を提供してくれることなど、非常に興味深いプロセスです。

Question n° 4_MO

日本とフランスでの味覚の違いを感じることはありますか。

アラン・デュカス

はい、もちろん、発酵によって味だけでなく食感にも違いが生じます。確かに、日本では生の食材はフランスよりも人気があり、日本料理の一部の味や香りは、フランスの人にとっては戸惑うことがあります。例えば納豆はそのアンモニアのような香りが驚きをもたらすことが確かにありますが、実際にはフランスの一部のチーズの香りとそれほど遠くはありません。

私たちが注目すべきは、両国の料理の豊かな対話です。異なる要素よりも、それぞれの料理文化が互いに影響を与え合い、交流し合っていることが魅力です。

そうですね、日本は明治時代から西洋、特にフランス料理に興味を持ち始めました。同様に、フランスの料理人たちは、１９６０年代から日本料理に情熱を注ぎ始めました。したがって、日本料理とフランス料理の間にはかなり古くから関係があり、きわめて実りある交流が続いてきたのです。

Question n° 5_MO

あなたは近年フランスの美術館や博物館におけるガストロノミーに力を注いでいらっしゃるようですが、文化、アート、そしてガストロノミーの関係性についてどうお考えですか。

アラン・デュカス

料理は食べられる文化です！

ある国の文化を知る最良の方法は、その国の料理を食べることです。

Question n° 6_MO

パリにあるミュゼ・グレヴァン（蝋人形館）には、アラン・デュカスさん、あなたの蝋人形が展示されていますが、蝋人形として展示されるのは、どのような感じがするのでしょう。

アラン・デュカス

私は素晴らしい仲間たちと一緒にいます。私と同様に、彼らもミュゼ・グレヴァンに自分たちの蝋人形があることは名誉なことでしょう。これはユーモアを持って見る必要があります。

ミュゼ（美術館・博物館）は楽しむための場所であり、夢を見るための場所です。子供も大人も、そこで俳優、スポーツ選手、芸術家、政治家といった、異なるバックグラウンドや経験を持つ蝋人形たちを通して、自分たちの人生や役割において新たな方向性や価値観を模索することでしょう。そうした空間に私も参加できて嬉しいです。

Photo ©︎ Pierre Monetta

アラン・デュカスのお気に入り「ショコラバーノワール」

Question n° 7_MO

現在とりわけ好きな板チョコレートはありますか。もしあるとすれば、そのわけも聞かせてください。

アラン・デュカス

ダークチョコレート75％の「ショコラバーノワール」です。ヘーゼルナッツのプラリネ、キャラメリゼして細かく砕いたピスタチオ、レーズン、そしてオレンジのコンフィが詰まっています。外側をおおっているダークチョコレートが割れて、中のフィリング（つまり、中身）が口の中で広がる瞬間が好きです。複雑な風味を味わえるからです。ヘーゼルナッツのプラリネがゆっくりと溶けていき、ピスタチオのかけら、レーズン、そしてオレンジのコンフィを堪能することができます。

Question n° 8_MO

どうしてチョコレートは、これほど多くの人々を魅了するのだと思いますか。

アラン・デュカス

私には具体的な回答をすることができませんが、あなたがチョコレートに魅かれていることを嬉しく思います！

チョコレートには幸福感をもたらす物質が含まれているからだとよく言われますが、それよりもチョコレートにまつわる幸せな記憶をたくさん持っているから、私たちはチョコレートが好きなのだと思います。

Question n° 9_MO

あなたはこれまでに非常に多くのことを実現させてこられました。これからどんなことをやっていきたいですか。

アラン・デュカス

私にとって最も大切なことは、指導することです。つまり、私のビジョンを共有し、その後自分自身の道を歩む新しい世代を身近に集めることです。

おっしゃる通り、この推進力は既に存在しています。それを継続し、さらに大きな広がりを与える必要があるのです。

Question n° 10_MO

あなたのファンで、今このインタビュー記事を読んでくれている読者にメッセージがあればどうぞ。

アラン・デュカス

まずは私たちのチョコレートに対するご関心に対して心から感謝申し上げます。私は非常に誇りに思い、大変光栄に感じています。皆さんには多くの喜びと発見を楽しんでいただき、私たちのチョコレートを周りの人々にも紹介してくださると嬉しいです。チョコレートの喜びは伝染するものです！

interview et réalisation par © Mika Ogura 2024

【プロフィール】

小椋三嘉（おぐら・みか）

エッセイスト、食文化研究家。

十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。